日本の原風景を守る「多自然川づくり」~治水・利水と環境保護両立への挑戦~
2017年08月04日
平成29年6月、国土交通省から「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」が提言として発表されました。
多自然川づくりとは
多自然川づくりとは、河川が本来持っている自然環境や景観を保全・創出し、再生する川づくりのことです。治水や利水と環境を両立させた河川管理を行います。
河川の改修では、瀬や淵を保存または再生し、川幅を広くとれるところは広くして勾配をゆるやかにし、植生や自然石を利用した護岸を採用するなど、自然の川の持つ多様性を尊重した改修工法が採用されます。
河川整備の歴史
従来、我が国では治水と利水に重点を置いた河川整備が行われてきました。
急峻な山地が大部分を占める国土であり、降水量も多いため、大雨の後には洪水氾濫が発生しやすく、古くから水害への対応が必要でした。さらに明治以後は、経済発展に伴い河川の利用が高度化・複雑化したため、様々な利害が対立するようになりました。
そのため、明治9年に制定された河川法では治水に重点が置かれ、昭和39年の改正河川法では、発電用水や農業用水などの利水問題の解決が目的とされました。水系一貫管理制度により、上流から下流まで一体となった治水・利水の総合的な開発が行われてきました。
そして、洪水時に極力早く水を上流から下流に流すため、川の横断面を均一化して直線化し、川岸を丈夫なコンクリートで覆うようになりました。川が単なる排水路として扱われるようになったのです。
そのため河川景観が画一化し、自然環境を喪失することが徐々に問題となり、地域住民からも開発差し止め請求が起こるようになりました。長良川河口堰では反対運動が全国規模になりました。これまでの川づくりを続けると、川の自然環境が損なわれ、日本には美しい川がなくなってしまうという危機感がありました。
多自然型川づくりへ
このような背景から、建設省は平成2年に、治水上の安全性を確保しながら多様な自然環境をできるだけ保全し、改変する場合は最小限に留めて、良好な自然環境を復元する「多自然型川づくり」を提唱しました。そして、平成9年の河川法改正では、「治水」「利水」に加え、「河川環境の整備と保全」が規定されました。
この考え方は急速に普及し、平成3年度は多自然型川づくりが約600箇所であったのに対し、平成14年度には河川工事総数約5,500箇所のうち、約7割に当たる約3,800箇所が多自然型になりました。
多自然型川づくりの課題
しかし、多自然型川づくりとしての具体的な工事基準が示されず、地域の独創的な川づくりが期待されたため、現場では混乱が生じました。
各地で環境保全効果を上げる一方で、本質的な理解がされずに、部分的に木材や石を使うだけに終わったり、明確な意図もなく再蛇行化したり、施工箇所の状況を考慮せずに単純に他の場所で実施された工法をそのまま移植するなどの場当たり的な改修もありました。
そこで国土交通省は、平成18年に「多自然型」ではなく「多自然川づくり基本指針」を制定して新たな川づくりの方針を示したのです(図表-1)。
出典:「多自然川づくりへの展開」多自然川づくりレビュー委員会
多自然川づくりへの提言
今回、平成9年の河川法改正から20年、平成18年の多自然川づくり基本方針から10年が経過し、改めて「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」という提言が発表されました。
①現場視点で考え、河川環境の整備と保全が現場で徹底されることが重要(図表-2)
出典:「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」河川法改正20年多自然川づくり推進委員会
②気候変動など変化も見据えつつ、日本の原風景である美しい川を引き継いでいくための検討を進める(図表-3)、という方向が示されています。
出典:「持続性ある実践的多自然川づくりに向けて」河川法改正20年多自然川づくり推進委員会
河川環境の整備・保全に向けた具体化により、さらに治水・利水と環境保護の両立が進むことが期待されています。
【用語解説】
●瀬・淵
瀬は、川の中で、流れが速く水深が浅い場所のことです。歩いて渡ることができます。一方、淵は、川の流水が緩やかで深みのある場所です。