ガラス建築を支える大きなガラス~ガラスの歴史と大板ガラスの作り方~
2017年07月20日
ガラス建築は、透明感や清潔感、そして光の透過と反射が開放的なイメージを表現しています。高級ブランドや大規模ビルで多く使われています。
ガラス建築の特徴
ガラスは、外部環境から人々を守る役割を果たすとともに、内部に明るい光をもたらします。外部への視界を広げることができる素材であり、窓から始まり建物の外装全体へも用いられるようになりました。これは、大きな板ガラスを作ることができるようになったからです。今日では、室内の間仕切り、階段や手すり、床、天井の仕上げ材などとしても使われ、現代建築には欠かせない建築材料となっています。
ガラスの起源と歴史
ガラスは、珪砂、ソーダ灰、石灰石などの原料を溶かして作られます。
紀元前4000年、エジプトのメソポタミアで、砂浜で焚き火をしている時に、岩塩を使って潮風を遮ったところ、偶然、岩塩が焚き火の熱で溶けて砂と反応して世界で最初のガラスが誕生したといわれています。
紀元前1500年ごろには、エジプトで粘土の型にガラスを流し込んで最初のガラスの器が作られるようになり、西アジアへも製法が広まりました。
紀元前1世紀頃には、フェニキアのガラス職人が宙吹きと呼ばれる製造法を発明しました。これは現代でも使用されるガラス器製造の基本技法です。この方法によって安価なガラスが大量に生産され、食器や保存器として用いられるようになりました。その後、ローマ帝国全域に伝わり、ローマガラスと呼ばれるガラス器が大量に生産されました。
この時期には板状のガラスも作られ、ごく一部の窓にガラスが使用されるようになりました。これが窓ガラスの起源です。
5世紀頃には、シリアで新しい板ガラス製造法が生み出されました。これは一旦、宙吹き法によりガラス球を造り、それを割いてから遠心力を加えて平板状にするものです。仕上がった円形の板を、切り出すことで、ある程度の大きさの平板なガラスを製造することに成功したのです。
そして、18世紀の産業革命を境に様々な技術の進歩とともにガラスの工業生産が始まりました。
日本にもガラス製造法が伝えられたのは、1570年代です。風鈴やガラス灯ろうなど、ガラス細工づくりが盛んになりました。そして、独特のカットをもつ薩摩切子や江戸切子が生まれました。
本格的な板ガラスの生産のはじまり
18世紀には、吹きガラス法を利用して大型の円筒を作り、それを切り開いて板ガラスを製造する方法が開発されました。この方法は20世紀初頭まで板ガラス製造の基本的な方法でした。
20世紀に入ると、板ガラスの製造法が急速に発達し、「フルコール法」「コルバーン法」といった方法が発明されました。また、完全な平面をつくるための「磨板ガラス」の技術も発達しました。そして1950年代に「フロート法」が誕生し、現代の板ガラス製造方法が確立したのです。
板ガラスの作り方
フロート法は、1959年にイギリスのピルキントン社が開発し、今では世界中に普及しています。
溶かしたガラス素地を溶融した錫(すず)の上に浮かべて、ガラスを板状にします。錫よりも比重の軽いガラスが上に浮かぶ性質を利用しています。この製法では、成形された板ガラスを磨く必要がなく、両面とも平らな大板ガラスとなります。
最大で10m×3m程度の大きさのガラスを生産することができます。
大板ガラスの生産が、建物のデザインや屋内環境を大きく変えてきたのです。
【用語解説】
●珪砂
珪酸分(SiO2)に富む石英の砂です。ガラス製品の主原料や鋳物砂として使用されます。
●ソーダ灰
無水炭酸ナトリウムの工業的慣用名です。JIS で 99%以上の炭酸ナトリウム ( Na2CO3 ) を含むことが規定されています。ガラスの製造原料のほか、染料、香料、医薬、農薬などの有機化合物の製造、繊維処理、石鹸、パルプの製造、洗剤配合用などに幅広く使われています。
●宙吹き
鉄パイプの先に溶かしたガラスを巻き取り、息を吹き込んで風船のようにふくらませて成形する方法です。型に入れて空気を吹き込む方法を型吹きと言い、両方が吹きガラスと呼ばれます。
●フルコール法・コルバーン法
フルコール法は、溶解窯からガラスを垂直に引き上げて板状に生産する方法です。この製造方法により、板ガラスを連続して製造する大量生産が可能になりました。コルバーン法は、一度垂直に引き上げ、やわらかいうちに曲げて水平にして徐冷する方法です。
●磨板ガラス
両面を磨いて平滑にした板ガラスです。フロート法の登場により磨かなくても平滑な板ガラスを生産することができるようになりました。