(7)今すぐできる建設業の安全確保【vol.2】ヒューマンエラーをなくせ
建設工事で不安全行動をなくすためには「ヒューマンエラー」をなくさなければならない。ついうっかり、とか、ぼんやりしていて、などという状態をなくさないといけないのだ。
今すぐできる安全確保第2回は、ヒューマンエラーをいかになくすかについて、考えてみよう。
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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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「ぼんやり君」と「あわて者」
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岩下「青木君、不安全行動をなくすためにはどうすれば良いと思うかい」
青木「朝礼で注意をうながし、現場でその確認をすることでしょうか」
岩下「人が不安全行動をとるのには、大きく2種類のパターンがある。まずは2~3カ月の間で、こんな体験、または似たような体験をした文章に○印をつけてくれるかい」
1. 落し物または忘れ物をした。
2. つまずいて転びそうになった(ころんだ)。
3. 電気のスイッチを切り忘れた。
4. 茶碗をひっくりかえした。
5. あとで電話しようと思っていたのに忘れてしまった。
6. 手に取ろうと思ったものとは違うものを手に取っていた。
7. 待ち合わせまたは予約をすっぽかした。
8. 熱いものをいきなり口に入れて舌にやけどをした。
9. 途中ではがきをポストに入れるのを忘れた。
10. よそ見をしながらお茶を注ごうとしてこぼれた。
11. 自分が今、何をやりかけていたのかを忘れた。
12. よけいなことを言って、あとで後悔した。
13. 電話を切ったあとで、要件を言い忘れたことに気づいた。
14. 家の家具か会社の机に体をぶつけた。
15. 会議または打ち合わせの時間をコロッと忘れていた。
16. 電車に飛び乗ったら行き先違いだった。
17. 電話がかかってきたために、やりかけのことを忘れてしまった。
18. 間違い電話をかけた。
19. 頼まれていたことをし忘れた。
20. 目的とは違う階でエレベーターを降りてしまった。
青木「はい、つけました」
岩下「奇数番号、偶数番号に、それぞれいくつ○印がついたかを数えて欲しい」
青木「私は奇数番号に5つ○が付き、偶数番号には2つ○が付きました」
今野「私は奇数番号に3つ○が付き、偶数番号には4つ○が付きました」
岩下「奇数番号に多くの○が付く人は『記憶喪失型ヒューマンエラ-タイプ』だ。奇数番号に○印が4つ以上ついた人は、『ぼんやり君タイプ』、6つ以上ついた方は『大ボケ君タイプ』だ」
青木「僕は『ぼんやり君』なのですね。私は、家を出てから忘れ物に気づくことがよくありますし、どこかでなくした傘の本数は数えきれません。車の運転中もすぐに考え事をしてしまい危なっかしいのです」
岩下「青木君のようなタイプの人は、常にメモをとったり、チェックリストを見ながら仕事をしたり、呼び鈴などの「シグナル」をセットするなどの対策が必要だな」
今野「私は偶数番号の方が多いです」
岩下「偶数番号は『うっかり行動型ヒューマンエラータイプ』だ。偶数番号に○印が3つ以上ついた人は『あわて者タイプ』、5つ以上ついた方は『ドジ男タイプ』だ」
今野「私は『あわて者』ですね」
岩下「このようなタイプの人は、指差呼称してから操作する、手を出す前に一呼吸おくなどの対策が必要だぞ。今野君次の文章を読んでくれるかい」
こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。
この ぶんょしう は イリギス の ケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか、にんんげ は もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば、じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて、わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす。
どでうす? ちんゃと よゃちめう でしょ? ちんゃと よためら はのんう よしろく
今野「よみにくかったけれど読めました」
岩下「これは、文章の単語の文字の最初と最後が合っていれば、その間の文字列の順番が入れ替わっていても、人は修正して認識するという事例だ。人には先読みする能力があるんだ。でも、正しく先読みすれば良いのだが、誤って先読みすると『うっかり行動型ヒューマンエラー』を起こしてしまう。つまり『ついうっかり』というのは誰にでも起こる危険性があり、それを防止する仕組みが必要なんだ」
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「ぼんやり君」はメモをせよ
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岩下「青木君のように『ぼんやり君』になる原因は時差ボケ、夜間作業、疲労、単調な作業の繰り返し、アルコール、風邪薬の服用などがある。アルコールや風邪薬はさておき、とりわけ疲労、単調な作業の繰り返しによる「ボンヤリ」をなくすための方法はいくつかあるぞ。例えば、定期的に時間を知らせて強制的に休憩を取る、休憩室を整備して、定期的に職場を移動しリラックスさせる、席替え、模様替えなど、物理的な環境を意識的に変化させる、仕事の内容、チェック方法、仕事の手順、ジョブローテーションなどこれまで行ってきた内容を意識的に変化させる声がけをして、ほめたり叱ったりして刺激を与えることがいいな」
青木「よくわかりました。頭はハッキリしているけれど忘れてしまうことがあるのですが、それはどうすればよいですか」
岩下「大切なことを忘れないようにするには繰り返し口ずさんだり、頭の中で思い出したり、書き写すとよい。毎日、毎日同じ歌を歌っていると歌詞を覚えたり、ポスターを毎日見ているうちに覚えてしまったり、メモとして書き込むと書いてあることを覚えることができるものだ」
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「あわて者」は色をつけろ
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岩下「今野君のような『あわて者』は錯覚して行動を起こすこともあるぞ。たとえば図の縦線は、左の図の方が、右の図よりも長く見えるだろう。しかし実際には同じ長さだ。また階段を下りているとき、もう階段はないと思って歩いていると実際には階段がもう1段あり、足を踏み外し、こけそうになることがある。そして13と書いてあるのにBとみえてしまうこともある。これらも目の「錯覚」だ」
今野「私はそのようなことがよくあります。このような「錯覚」を、防ぐにはどうすればいいですか」
岩下「例えば最初の事例だと、長さがわかる2本の線を引くといい。2つめの事例だと踏み外しそうな階段の最下部、もしくは床に色をつける。3つめの事例だと13とBを見間違えないように、その前後に12,11と書くんだ。実際の工事現場では錯覚の起きそうな場所は随所にあるので、それを把握しヒューマンエラーをなくすことが重要だ」
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ヒューマンエラーには「ぼんやり君」と「あわて者」のタイプがある。
そのため、自分や一緒に働く仲間がどちらのタイプなのかをよく考えて、事前に対策を打つとよい。
人はいつも同じ行動パターンをとるものだ。それを知ることでヒューマンエラーをなくすことができるのだ。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。