海岸侵食による国土の流失~海岸の安全と環境を守る取り組み~
2016年08月10日
近年、海岸侵食が激化し、年間160haもの貴重な国土が失われています。
海岸侵食の状況
日本の海岸線総延長約35,000kmのうち、砂浜・礫浜や岩礁・崖などの自然海岸が約2/3、人工的な構造物の海岸が約1/3となっています。砂浜の面積は全国で約19,000haありますが、最近の15年間で約13%に当たる約2,400haが侵食により失われています。
海岸は、波浪を減衰させ、陸域への波の進入を防ぐという防災上の役割だけでなく、ウミガメなど各種の動植物の生息・生育や人々の利用の場としても重要な役割をはたしています(図表-1)。
出典:宮崎河川国道事務所「宮崎海岸について」
海岸侵食が進むと動植物の生育環境を奪うとともに、陸地への塩分飛来、浸水被害の増加など、さまざまな影響が広がります。また、堤防等の海岸保全施設の基礎を洗掘してしまうため倒壊等の災害が発生します。
海岸侵食の仕組み
海岸侵食は、「海岸へ流れ着く土砂の量」よりも「海岸から流れ出る土砂の量」の方が多い場合に、海岸線が徐々に後退する現象です。
砂浜は、山から川、そして川から海へと供給される土砂により、長い年月をかけて形作られてきました。そして、砂浜の形状は、その砂の特性と、波の強さや方向などの力による微妙なバランスの上に成り立っています。
山から川へ、川から海岸への自然な土砂の流れが人工構造物によって妨げられた結果、来襲する波の力とその方向によって運ばれる「海岸へ流れ着く土砂の量」が減少して海岸侵食が発生するのです。
日本では、1960年代から活発になったダム開発、河川改修などで、海洋へ流出する砂が偏在または減少するようになったことも海岸侵食が進んだ原因です。
海岸浸食の対策
かつては、国土保全を目的に海岸線に堤防や護岸を建設し、次に越波防止を目的に堤防・護岸の前面に消波工を建設してきました。しかし、「海岸から流れ出る土砂の量」を直接的に減少させることはできませんでした。
そこで、来襲する波の力を弱めて「海岸から流れ出る土砂の量」を減少させることのできる離岸堤や人工リーフなどの整備が進められています。これらは、沖合の海底に消波ブロック等を設置して、その消波機能によって波の力を弱めるものです。
宮崎海岸の侵食対策
宮崎県の海岸線は南北約400kmに及び、中でも宮崎市から日向市にかけての約60kmは、ほぼ直線の砂浜海岸が続きます。
宮崎海岸は、昭和50年代後半から海岸侵食問題が顕在化しました。海岸の背後には、住宅地、有料道路、リゾート地区、農地などが広がっており、これらの資産・施設を守るために、護岸や離岸堤の整備による侵食対策が図られています。
平成23年には、行政・市民・専門家が連携して、安全・安心の確保と環境・景観にも配慮して「宮崎海岸保全の基本方針」と「宮崎海岸の侵食対策」を策定しました。具体的には、①養浜工事、②突堤工事、③埋設護岸工事にそれぞれ着手し、効果・影響を確認しています。
その結果、28年6月には埋設護岸施工箇所でアカウミガメの産卵が確認されるなど、環境改善の兆しが見えています。
このように、全国各地で国土を守るための地道な活動が続けられています。
【用語解説】
●消波工
波のエネルギーを分散、消失させる構造物で、テトラポッドの商品名で知られる消波ブロックが代表的です。
●離岸堤
沖からの波の力を弱め、海岸の侵食を防止するとともに、砂が沖に取られるのを防ぐ簡易な防波堤です。
●人工リーフ
水面下に没した消波構造物で、海岸付近に幅広い浅瀬をつくるものです。海岸側に波の小さな海域をつくることができます。
●養浜
人の手で砂を戻すことです。日本では1970年代から用いられるようになり、1990年代以降は、各地の海水浴場でも養浜が行われています。補給した砂の喪失を防ぐため、突堤や離岸堤などの構造物と併用されます。
●突堤
海岸から海に向けて細長く伸びる堤防です。一定の間隔で数本から数十本設置し、砂が流されるのをくいとめます。
●埋設護岸
自然の堤防である砂丘がくずれないように浜崖の根元を波から守る「砂の中に埋まった護岸」です。