拡大するインフラ点検市場
2014年09月28日
平成24年12月に中央自動車道笹子トンネルで発生した天井板の崩落事故をきっかけに、今年7月から道路の橋やトンネルでの定期点検が義務化されました。
急速に進む老朽化
出典:国土交通省「老朽化対策の取り組み」
国土交通省道路局によれば、国内には、約70万の橋梁と約1万のトンネルがあります。
このうち建設後50年以上経過した橋の割合は、平成25年4月時点では全体の約18%でしたが、10年後には約43%にまで急増します。
トンネルでは、約20%が34%に増加します(図表-1)。
出典:国土交通省「老朽化対策の取り組み」
また、約70万の橋のうち75%にあたる50万橋と、約1万のトンネルのうち24%にあたる2.6千本が市町村の管理する道路となっています(図表-2)。
点検を実施する市町村にとって負担が非常に大きいため、橋長15m以上の橋梁における橋梁長寿命化修繕計画の策定率は、都道府県・政令市が98%であるのに対し、市区町村では51%に留まっています。
さらに、修繕が必要とされた橋梁に対する修繕実施状況は都道府県・政令市で17%、市区町村では3%となっています。
このようなことから、全国の市町村が管理する橋では、ケーブルの損傷や橋桁の腐食が原因で通行止めとなった事例が過去5年間で倍増しています。
5年度ごとに健全性を評価
このような現状を受け、橋とトンネルについて、5年に1度の頻度で国が定める基準によって近接目視による点検が義務化されました。点検の結果は、「健全」、「予防保全段階」、「早期措置段階」、「緊急措置段階」の4段階に区分されます(図表-3)。
出典:国土交通省「維持修繕に関する省令(案)・告示(案)について」
道路橋では、主桁や床版、支承といった部材単位の健全性と、橋ごとの健全性を判定します。部材単位の健全性の診断結果に基づいて、補修や補強、撤去、通行規制などの措置を講じることになります。
近接目視検査の必要性
これまでの点検では、約8割の自治体で、双眼鏡を使った遠望目視が主に行われていました。しかし、ある自治体が遠望目視で点検した約50橋を対象に、第三者機関が近接目視で再点検したところ、約3割で点検結果が異なるという結果が得られました。
そのため、今後はすべての橋やトンネルで「打音検査が可能な距離まで近づく近接目視」が義務化されたのです。必要に応じて、触診や打音検査を含む非破壊検査を実施します。
点検技術者の不足
出典:国土交通省「維持修繕に関する省令(案)・告示(案)について」
道路橋の点検では、「道路橋に関する相応の資格または相当の実務経験」、「道路橋の設計、施工、管理に関する相当の専門知識」などを持つ者が定期点検を実施すると定められています。
しかし、町の約5割、村の約7割は橋梁保全業務に携わる土木技術者が存在しません(図表-4)。
国土交通省は、各地方整備局の技術事務所で実施している研修に維持管理に関するコースを設け、自治体職員も参加できるようにする予定ですが、育成は簡単ではありません。
点検ロボットへの期待
橋やトンネルの点検作業では、足場が必要となり、その組立や撤去作業にも時間とコストがかかります。また、車の走行に支障があれば交通規制も必要となります。さらに、点検技術者が点検を行っても、細部にまで目を行き届かせるのは容易ではありません。そして、目視や打音など人の五感に依存する手法の限界を指摘する声もあります。
そこで、国交省と経産省はインフラの維持管理に対応したロボットの開発・導入を支援しています。
近接目視の代行ロボットや、壁や天井を叩き、反響音で内部の劣化を診断する「打音検査」を代行するロボットなど、産学をあげた開発により実用化が進んでいます。
ロボットなら人の手が届きにくい狭所でも足場なしで検査できます。しかも、熟練作業者に代わり定量的な評価も行うことができます。
インフラ点検の市場が拡大する中で、点検ロボット実用化への期待が高まっています。
「荒廃する日本」を防ぐために
1920 年代から幹線道路網を整備した米国は、1980 年代に入ると各地で橋や道路が壊れ「荒廃するアメリカ」といわれました。その後急ピッチで予算を増やし改善が進められました。
日本が置かれている状況は、1980 年代の米国と同様です。「荒廃する日本」となる前に、本格的なインフラのメンテナンス体制を構築することが必要となっています。