建設業界の負の遺産~アスベスト処理の課題~
2017年01月17日
アスベストは、天然にできた鉱物繊維で石綿(せきめん)とも呼ばれています。アスベストによる健康被害といわれている中皮腫の患者が年々増え続けています。
アスベストとは
アスベストは、安価で耐火性、耐熱性、防音性などに優れているため、建築材料として多くの建築物に使用されました。特に、ビルの高層化や鉄骨構造化に伴い、鉄骨造建築物の軽量耐火被覆材として、1960年代から80年代にかけて多く使用されました(図表-1)。その他にもボード類などの建材、電気製品、自動車などに利用されてきました。
出典:環境省「解体工事を始める前に」
アスベストの健康への影響
アスベストは、ヒトの髪の毛の直径(約40μm)よりも極めて細い繊維です。飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入するとヒトの肺胞に沈着します。吸入したアスベストの一部は体外へ排出されますが、アスベストは丈夫で変化しにくいため、肺の組織内に長く滞留します。この滞留が原因となって、肺がんや中皮腫などの病気を引き起こします。吸入後40年前後の潜伏期間を経て発症することが報告されています。
建築材料として多く使用されたため、建設や解体の現場で多く飛散していました。建設労働者にとって心身の安全にかかわる重大な問題となっています。
諸外国では、1970年代から80年代にかけて使用禁止などの措置がとられてきましたが、日本では、近年まで一部の使用が認められていました。
中皮腫による死亡総数は、1995年の500人から2013年の1,410人と約3倍に増加しています。
アスベストの使用量
アスベストのほとんどは、海外から持ち込まれました。年間の輸入量は、高度成長期の1960 年代に急激に増加し、1974 年の35 万トンが最高でした。1970 年代から80 年代までは25 万トンから35 万トンの水準で推移しました。アスベストの危険性が知られるようになり、段階的に使用が規制されたため、1990 年代から年々減少し、2005 年は110 トンとなりました。(図表-2)。輸入量の8割は建築材料として使用されています。
出典:独立行政法人環境再生保全機構「アスベストとは?」
アスベストの規制
労働安全衛生法施行令の改正により、2006年9 月から、代替化が困難な一部の製品を除き、アスベスト含有製品の製造等が全面的に禁止されました。さらに、2012 年3 月には全面禁止となりました。また、アスベストを使用した建築物の解体等工事に伴う曝露防止や一般大気環境中への飛散防止対策の強化も図られてきました。
解体処理時の注意
アスベスト含有建材を用いた建物の解体や改修工事では、建設労働者の健康被害の防止、大気汚染防止の点からアスベスト繊維の空気中への飛散を防止することが必要です。原則として湿潤化して手作業で解体し、飛散性の高いアスベストの除去においては、作業場を隔離し、除塵装置を使用することとなっています。
しかし、建築材料にアスベストが使用されているか否かの事前調査が不十分である事例や、環境省が実施している大気中のアスベスト濃度のモニタリングにおいても、アスベスト除去現場からの飛散事例が確認されています。
アスベスト処理の課題
このような問題の原因として、発注者がアスベストを使用した建築物等の解体工事等を発注する際に、できる限り低額で短期間の工事を求めること、また、施工者も低額・短期間の工事を提示することで契約を得ようとするため、飛散防止対策が徹底されないという問題が指摘されています。
そこで、2014年6月からアスベストの飛散防止対策が強化されました。
(1)特定粉じん排出等作業の届出義務者が、工事の施工者から工事の発注者又は自主施工者に変更になりました。
(2)解体工事の受注者及び自主施工者は、アスベスト使用の有無について事前に調査をし、その結果等を解体等工事の場所に掲示しなければなりません。
(3)解体等工事の受注者は、発注者に対し調査結果等を書面で説明しなければなりません。
1970年代から1990年にかけて建てられた建物の解体のピークが2020年から2040年頃に来ると予想されており、アスベスト曝露防止対策の徹底が大きな課題となっています。
【用語解説】
■アスベストの種類
アスベストには、蛇紋石族のクリソタイル(白石綿)と角閃石族のクロシドライト(青石綿)やアモサイト(茶石綿)などがあります。それぞれの直径は、クリソタイル0.02-0.08μm、クロシドライト0.04-0.15μm、アモサイト0.06-0.35μmです。
■曝露
さらされる、触れる、吸入することです。