アジアとヨーロッパをつなぐボスポラス海峡トンネル~海中にトンネルを埋める沈埋工法で完成~
2016年10月31日
ボスポラス海峡トンネルは、2011年2月に貫通し、2013年10月に地下鉄が開通しました。
アジアとヨーロッパを分断するボスポラス海峡
交通の要衝として栄えるイスラム圏最大級の世界都市イスタンブルで、ヨーロッパとアジアを分断しているのが全長約30kmのボスポラス海峡です。このイスタンブルの人口は1,300万人で、大経済圏を形成しています。
ボスポラス海峡トンネルとは
この海峡には2本の道路橋とフェリー航路がありますが、人口増加や経済発展に伴う交通渋滞と環境への影響が問題となっていました。
そこで、地下トンネルを通る鉄道で両岸を結んで混雑緩和を図り、海峡で分断された街を一体化する目的でトンネルの建設が始まりました。
計画自体はオスマン帝国時代の1860年からありましたが、政治的あるいは技術的理由により何度も頓挫していました。この計画は、イスタンブルをアジアとヨーロッパの結合点として成長させるトルコの国家を挙げての一大事業であり「トルコ150年の夢」とも呼ばれていました。
工事は、日本の大成建設と現地トルコの建設会社2社の3社によるJVで行われ、高度な技術を必要とする沈埋トンネル部分を主に大成建設が施工しました。
トンネルを海中でつなぐ沈埋工法
海峡部分は、11個の沈埋函(ちんまいかん)を組み立てた全長1,387mの沈埋トンネルで横断しています(図表-1)。沈埋トンネルとは、あらかじめ陸上で製作したコンクリート製の沈埋函(トンネル)を海底に沈めてつなぎ合わせていく工法で、高度な技術を要します。
出典:(社)土木学会岩盤力学委員会ニューズレターNo.7「ボスポラス海峡横断鉄道建設工事」
沈埋工法では、水底から浅いところにトンネルを建設することができるため、トンネルを短くできる、沈埋函を沈める工法のため軟弱地盤にも建設でき、工期も短縮できるというメリットがあります。
沈埋函の接合
沈埋函は、内部に水が入らないように閉鎖され、既設函に新設函を近づけながら沈下させてジャッキで引き寄せます。沈埋函の外周部には止水部材が取り付けられていますので、ジャッキを引き寄せることで接合部を封鎖し、この空間の水を抜いてから両方の沈埋函を貫通させます。
ボスポラス海峡トンネルでは、もっとも深いところで海面下約60mの場所に沈埋函が設置されました。
ボスポラス海峡特有の問題
ボスポラス海峡は、約2.5m/秒という世界有数の海流の速さだけでなく、海面側は黒海の淡水と海底側は塩水という上下で逆向きの二層の流れがあり、沈埋工法での施工は高度な技術が必要な難工事と言われていました。
また、大型船舶やフェリーが多く航行するため作業時間や規模が限られました。さらに、トンネル地点は北アナトリア断層から18kmしか離れておらず、30年以内にマグニチュード7.0以上の地震が発生する可能性が最大で77%と見積もられる地震地域でもありました。
工事中には遺跡の出土もあり、発掘のために工事の遅れも生じました。
トンネルがつなぐアジアとヨーロッパ
このような問題を克服して工事は進められ、沈埋函を最大10cmの誤差で設置することができました。陸の部分はシールド工法、海底部分は沈埋工法でトンネルが建設され、地下で直接接合されました。
このトンネルの開通によりアジアとヨーロッパが鉄道でつながれました。人やモノの大量輸送が可能となり、トルコ共和国の更なる発展に役立っています。
【用語解説】
■マルマライプロジェクト
ボスポラス海峡を横断する海底鉄道トンネルにより、イスタンブルのヨーロッパ側とアジア側を接続する事業のことです。事業区域のすぐ南にあるマルマラ海と、トルコ語で鉄道を意味するライの混成語です。
■沈埋函の製作
沈埋函は、下半分を製作してから進水させ、上を造ります。重量が軽い方が地上で運びやすいからです。函を沈めるために水を取り込むバラストタンク、人が出入りするためのアクセスシャフト、接合のためのゴムガスケットや引き寄せジャッキなどの設備も水上で浮かせたまま取り付けられます。