飲料確保のために始まったダムの建設 ~治水、灌漑、発電への活用~
2016年11月15日
わが国は世界的に見ると降水量が多く水が豊かな国ですが、河川の勾配が急で長さが短いため、一年を通じて流量の変動が大きいのが特徴です。そこで、降った雨を水資源として、安定的な水利用を可能にするためにダムや堰等の水資源開発施設を建設しています。現在のダム建設の目的は、治水、灌漑などの利水、発電などです。
ダム建設のはじまり
最古のダムは、紀元前2750年に建設されたサド・エル・カファラダムといわれています。堤高11.0メートル、堤頂長が106メートルで、ピラミッド建設のための石切り場の作業員や家畜に水を供給する上水道の目的で建設されました。
わが国の水利用は、古代のため池の築造に始まり、米生産の増強のため、小・中河川の利用が進みました。日本最古のダムは、蛙股池です。162年に奈良市に灌漑用として建設されました。飛鳥時代に建設された狭山池は現在も灌漑ダムとして使われています。
明治以降は工業用水の需要が急激に増大し、戦後は高度成長と人口の増加に伴い、生活用水、工業用水、農業用水の需要が急増しました。そのため、多目的ダムの建設によって安定的な水の供給が行われてきました。都市化・工業化の進展による電力需要の増大から水力発電事業も大きく発展しました。
難工事を克服して完成した黒部ダム
黒部ダムは、戦後復興期の関西地域の電力を確保するため、水力発電を主目的として関西電力によって建設されました。ダムの高さは186mで日本一を誇ります。
総工費513億円は、当時の関西電力資本金130億円の4倍という巨額な金額でした。
建設工事現場があまりにも奥地であるため、ダム予定地まで大町トンネル(現関電トンネル)を掘ることを決めましたが、破砕帯から大量の冷水(4℃)が噴出するなど、多数の死者が出る大変な難工事となりました。別に水抜きトンネルを掘り、薬液セメントで岩盤を固めながら掘り進めるという最新鋭の技術が導入されました。その結果、80mの破砕帯を7ヶ月で突破し、トンネルが貫通しました。
作業員は、延べ1,000万人を超え、7年の年月をかけて完成しました。工事期間中の殉職者は171人に及んでおり、いかに困難な工事であったかがうかがえます。
日本のダムの役割
わが国は、これまでにもたびたび渇水が発生し、水道の断水や、工業用水不足、農作物の成長不良などの被害が発生してきました。6月から7月頃の梅雨期、9月から10月頃の台風期のような水量が多い時期と水量が少ない時期があり、一年を通じて河川流量の変動が大いためです。(図表-1)
出典:国土交通省「水資源の開発」
安定的な水利用を可能にするためには、河川の流量の変動にかかわらず、1年を通じて一定の水量を河川から取水できるようにすることが必要です。
そのために、わが国では多目的ダムと農業用水、水道用水、工業用水に関するダムが合わせて2,800カ所も建設されています。わが国のダムは河川の距離が短く勾配が急であることなどから、海外のダムに比べて貯水量が少ないのが特徴です。国内のダムの全ての貯水量を合計してもアメリカのフーバーダム1つの貯水量にも及びません。(図表-2)
出典:国土交通省「水資源の開発」
ダムの堆砂問題
ダムは、水を貯めるのが目的ですが、同時に河川の砂も貯めてしまいます。そのために、下流に砂が流れず、河床が低下したり海岸が浸食するという問題が起こっています。土砂のバイパストンネル、排砂ゲートなどの整備など、ダム湖のリフレッシュ対策が進められています。
【用語解説】
■灌漑(かんがい)
農地に外部から人工的に水を供給することです。
■ダムと堰(せき)
川法では、貯水・取水するダムを対象に堤高15m以上のものをダム、それ以下を堰として区別しています。その他に、山からの土砂流出を防ぐ砂防ダムがあります。高さ7m以上を砂防ダム、それ以下を砂防堰堤と呼びます。
■ダムの語源
アムステルダムやロッテルダムという地名にも表れているようにオランダ語が語源で、もともとは堤防を意味する言葉です。