化学プラント
化学プラントとは、化学製品を生産する工場施設や装置の総称です。 石油や天然ガスなどの原料から化学物質を生産する工場や設備のことです。
化学プラントの特徴
(1)化学プラントの生産プロセス
化学プラントは原料を「反応」や「分離」させることによって化学物質を生産します。「反応」合成や分解があり、「分離」には、蒸留・抽出・吸着などの手法があります。
化学プラントの生産プロセスの設計は、これらをどのように組み合わせるかということになります。
(2)生産プロセスの3要素
この生産プロセスや設備を決めるために大切なのが、反応生成物、反応条件、反応空間の3要素です。反応生成物とは反応物である原料と生成物である製品です。反応条件は、温度や亜圧力の条件になります。反応空間は反応を進行させるための空間です。
(3)化学プラントの特徴
化学プラントの特徴は、取り扱う原料や製品の多くが有害で危険な物質を含んでいることです。また、反応を進めるために高圧や高温になっていたり、逆に真空や低温になっていることもあります。
そのため、化学プラントの設備配管は密閉され基本的に空気や異物の混入が無い状態に管理されています。
化学プラントの種類
有機化学プラントと無機化合プラントがあります。有機化学には、石油化学、天然ガス化学、石炭化学などがあり、無機化学には、ソーダ工業、アンモニア工業などがあります。一般に化学プラントという場合は、石油化学プラントを指します。
石油化学プラントでは、ナフサを熱分解してエチレンを製造するプロセスが中心です。その他にプロピレンやベンゼン、トルエンなどを生産します。また、それらを原料として多くの誘導品を生産します。
石油化学コンビナートは、製油所、エチレンプラント、誘導品工場など、石油化学工業・石油精製工業に関する石油化学プラントの集合体をさします。エチレンの生産能力がそのまま石油コンビナートの能力と見なされます。
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天然ガスの主成分であるメタンを原料とする化学工業です。一次製品のメタノールから多くの誘導品を製造します。エタンは石油を採掘する際の副産物であり、価格を安く抑えることができます。天然ガスの豊富なアメリカや中東などでは、エタンからエチレンを製造するのが主流となっています。
石炭からコークスを作る際の副生物であるガスやコールタールを原料とします。
食塩の電気分解により苛性ソーダや塩素を生産します。またはそれらを原料とした製品を生産します。
窒素を含む無機化合物を生産します。代表的な製品には、アンモニアや硝酸があります。
化学プラントのプロセスエンジニアリング
プロセスエンジニアリングとは、プラントの骨組みを決める業務です。プラントの基本性能を設定して以下のような仕様を決定します。
① 製品と原料、副原料の仕様
② 工程の流れや組み合わせ
③ 温度・圧力・速度などの工程条件
④ 電気や熱などのエネルギー量
⑤ 設備や機器の仕様
⑥ 運転方法
プロセスエンジニアリングを経て化学プラントの建設が行われます。
化学プラントのリスクと安全管理
化学プラントで取り扱う物質の多くは、引火性、爆発性、毒性、腐食性などの危険を持っています。また、化学反応の効率化、物質の安定性維持のため高温・高圧、極低温などの環境で運転が行われます。
そのため、化学プラントで事故が発生すると、①多数の死傷者が発生する、②周辺住民や施設にまで影響が拡大する、③重大かつ広範な環境汚染になるなど、大きな災害になることが少なくありません。このように、他のプラントと比べて大きなリスクがあります。
化学プラントでは、安全管理が最も重要な業務であり、トップの基本方針をもとに、生産プロセスの危険性評価、危険物質の管理、火気管理、安全教育・訓練、緊急時対応計画、安全監査などを日頃から行っています。
化学プラントのエンジニア
(1)化学系エンジニア
原料の特性や製品のスペックを踏まえて、生産プロセスを構築したりマネジメントする役割を担います。機械系エンジニアなどとともにプロジェクトのコーディネートやプラントの基本設計、装置・配管の設計などに携わります。
(2)機械系エンジニア
機械系エンジニアは、プラントの基本設計・詳細設計からオペレーション、メンテナンスまでを担います。化学プラントの工程は、ほとんどがタンクやパイプの中で行われるため、目に見えません。計器を見ながら温度や圧力、原料の投入をコントロールして製品をつくります。
(3)電気系エンジニア
電気系エンジニアは、プラントへの電力供給システムやプラント全体を統括する制御システムを構築します。
(4)土木系エンジニア
土木系エンジニアは、プラントやそれに付随する港湾施設や道路などの設計・施工管理を担当します。
化学プラントの資格
化学プラントで働く場合は下記の資格が役立ちます。
(1)高圧ガス製造保安責任者(甲種)
石油化学コンビナート等高圧ガス製造事業所において、製造に係る保安の統括的な業務を行うのに必要な資格で、化学と機械の2分野があります。高圧ガスの種類及び製造施設の規模についての制限がないため、 保安技術管理者、保安主任者及び保安係員に選任され、全ての製造施設に関する保安に携わることができます。
(2) 危険物取扱者(甲種)
一定数量以上の危険物を貯蔵する化学工場やガソリンスタンド、石油貯蔵タンク等の施設には、必ず危険物取扱者を置かなければいけません。甲種危険物取扱者は全類の危険物について、取り扱いと定期点検、保安の監督を行うことができます。
(3) エネルギー管理士
規定量以上のエネルギーを使用する第一種エネルギー管理指定工場(製造業、鉱業、電気供給業、ガス供給業、熱供給業の5業種)の事業者は、工場のエネルギー消費量に応じて一定人数(1~4名)の「エネルギー管理者」を「エネルギー管理士」から選任しなければなりません。
(4) 公害防止管理者(大気・水質)
製造業、電気供給業、ガス供給業、熱供給業の工場においては、燃料や原材料の検査、騒音や振動の発生施設の改善、排出水や地下浸透水の汚染状態の測定、煤(ばい)煙の量や特定粉塵(じん)の濃度測定、排出ガスや排出水に含まれるダイオキシン類の測定等の業務を管理する公害防止管理者の選任が義務付けられています。
これからの化学プラント
技術の発展により、化学プラントの進化が進んでいます。今後の方向性は、①大型化、②メンテナンスフリー、③省エネルギー、④省力化、⑤環境調和などです。
省力化については、これまで、化学プラントの運転は人間主体で行われてきましたが、最近はコンピュータ制御により自動化運転が行われるようになっています。環境調和については、排水、排ガス、廃棄物のゼロ化や騒音、振動、放熱のゼロ化などです。
国内需要の減少や海外市場の拡大など、激変する内外の環境変化に対応するため、企業間のアライアンスをはじめとする業界再編による企業体質強化が進んでいます。
用語解説
■ナフサ
ナフサとは、原油を常圧蒸留装置によって蒸留分離して得られる沸点がおおむね35 – 180℃程度のもので、粗製ガソリンとも呼ばれます。そのうち沸点範囲が35 – 80℃程度のものを軽質ナフサといい、エチレンプラント原料として多く使用されます。
■エチレン
反応性が高く、様々な化合物の原料として用いられています。エチレンを重合するとポリエチレンになります。