(11)技術営業の進め方【vol.3】表現力と交渉力
技術者が持ち前の技術力を活かして営業活動をする際の5つの留意点のうち、相手の心に響く話をする「表現力」、相手に納得してもらう「交渉力」がなければ、最終的に工事を受注することはできない。
今回は、技術者が営業をする際に必要な「表現力」「交渉力」を解説しよう。
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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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まずはプレゼンする態度から
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武上;ここまで、技術営業に重要な親密力(第一印象)、調査力(聴く力)を高める方法を話してきたね。
次は、作成した企画をお客様にプレゼンしなければならない。
今野;僕はプレゼン苦手です。どうしても緊張してしまうので。
青木;僕は勢いでプレゼンをやっています。気分がいいので、自分では得意だと思っているのですが、お客様に伝わっているかどうかは不安です。
武上;親密力と同様に、まずはプレゼンする人の見た目が重要だ。まずは登場シーン。青木君は漫才が好きかい?
青木;はい、大好きです。いつもテレビで漫才を見て、笑い転げています。
武上;人気のある漫才師はどのようにして舞台に登場する?
青木;元気よく走って出てきますね。
武上;そうなんだ。芸人は勢いよく登場することで、勢いがある芸人であることを表現している。
青木;では我々も走って登場すればいいんですね。
武上;それは相手にどのように感じて欲しいかで決まるよ。
勢いがある技術者だと感じて欲しいのなら、元気よく登場すればよい。
しかし親しみがある技術者であると感じて欲しいのなら笑顔で登場。
信頼できる技術者であると感じて欲しいのならゆったりと登場した方がいいね。
青木;なるほど、相手にどのような印象を持ってもらいたいのかが重要なのですね。私は若いので「勢い」を伝えたいです。
今野;私は「親しみ」を感じてもらおうと思います。
武上;ジェスチャーも重要だよ。
肩より上のジェスチャーは勢いや、リーダーシップを印象付ける。
胸のあたりのジェスチャーは信頼感を与えるんだ。
胸より下のジェスチャーは頼りない感じがするから注意しよう。
また一つのジェスチャーは3秒続けた方がよい。
青木;なにげなくジャスチャーを入れていましたが、よく考えて行わないといけないのですね。
武上;プレゼンするときの視線も重要だ。聴衆全員に目を配った方がよいとよく言われるが、話しながら視線を移動させてはいけない。
青木;えっ、ではどうすればよいのですか。
武上;話している間は、一人にアイコンタクトする。次の文章に移ったら別の人にアイコンタクト。つまり一文一アイコンタクトだ。
青木;難しそうだけどやってみます。
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PREPLPで相手を巻き込め
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武上;話に相手を巻き込まないと、自社の企画を採用してもらうことはできないよ。そのためにはI→YOU→WE法が有効だ。
青木;それはどういう方法ですか?
武上;まずは、私を主語にし、次にあなた、最後の私たちを主語にして話す、というものだ。例えば次のようだ。
「私には高齢の母がいて、介護に苦労しています。あなたのご両親もいずれそのような状態になる可能性が高いのです。私たちは高齢化社会を迎え、お年寄りが幸せに暮らせるような家に住みたいものですね。」
青木;なるほど、最初は他人事のように聞いていましたが、最後には自分事になるのですね。
武上;プレゼンの構成は、PREPLP(プレップ・レルピー)法が効果的だ。
青木;プレップ・レルピーってなんですか。
武上;以下の言葉の略だ。
Pポイント(結論);私は○○だ。
Rリーズン(理由);なぜなら○○から。
Eイグザンプル(例);例えば・・・。
Pポイント(結論);だから私は○○だ。
Lレッツ(誘い);しましょう。
Pプリーズ(お願い);してください。
例えば次のようだよ。
P:私はバリアフリー住宅を提案します。
R:なぜなら、将来ご両親と同居する際、そして将来転売する際に有利だからです。
E:例えば、●●さんは建設後10年して転勤のため転売されましたが、建設費の90%で販売することができました。
P:だから私はバリアフリー住宅を提案します。
L:ぜひ将来を考えた住宅設計をしましょう。
P:どうぞご決断ください。
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交渉力に重要なことはアサーティブ
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武上;プレゼンの次は、相手と交渉して受注に結び付けないといけない。
青木;交渉で相手を説得するということですね
武上;交渉の基本は、説得しないで共に勝つということだ。
相手を交渉で打ち負かしてもいつの日か仕返しをされる。逆に相手に打ち負かされるといやな気分が残ってしまう。
いかにしてお互いの利害を調整して、双方が自発的に合意する形にするのかということが重要だよ。
今野;私は交渉が苦手なのですが、どうすればよいでしょうか。
武上;交渉力を高めるためには、まずは当方の思いを率直に伝えることが大切だ。
伝えたい相手にしっかり自己主張することを、アサ―ティブ(Assertive)コミュニケーションという。アサ―ティブとは、表明する、主張する、の意味だ。
しかし多くの場合、その主張が強すぎたり(「アグレッシブ」)、弱すぎたり(「パッシブ」)して相手にきちんと伝わっていない。
青木;アグレッシブ、パッシブってなんでしょうか。
武上;「アグレッシブ」は攻撃的。アグレッシブな人は、言いたいことはなんでも言うし、誰にでもストレートに表現してしまう。仲間からの頼みであっても無下に断ってしまうので、「もう、あなたには頼まない」といって、人が離れて行ってしまうこともある。
「パッシブ」は受身的。パッシブな人は、仕事の依頼を断りたいのに、まわりくどくいってしまう。仕事を頼む際にもはっきり言わないので、相手には何をして欲しいのか伝わっていない。
青木;アサーティブとはアグレッシブとパッシブの中間ですね。
武上;そうだ。例えば、相手への伝達の仕方ででもこの3つは明確に現れるよ。
お客様に見積もりを出した場合…
・アサ―ティブ;「…をお願いします。もしもこの条件で難しければご連絡ください。」
・アグレッシブ;「…をお願いします。以上」
・パッシブ;「お忙しいところ申し訳ありませんが…。○日までに返答をいただきますと幸いです。お手数ですが、なにとぞよろしく・・・」
青木;アグレッシブな人は、どんな特徴があるのですか。
武上;アグレッシブな人は、過去の話を持ち出す(以前よりこの価格で工事していますので、この条件にてよろしくお願いします。)のに対して、アサーティブな人は、今の話をする(この案件をぜひともお客様とともに進めたいので、一緒にがんばりましょう。)
また、アグレッシブな人はマイナスの言葉が多い(その金額で到底無理です)のに対して、アサーティブな人はプラスの言葉で伝える(よい建物を作り、幸せな生活をしていただくためにもこの金額でよろしくお願いします)。
青木;なるほど、ずいぶん異なりますね。パッシブな人はどんな特徴があるのですか。
武上;パッシブな人は前置きや言葉のクッションが多い(ご多忙のところ、見積ご依頼いただき、本当にすみません。)のに対して、アサーティブな人は感謝の気持ちを表す(見積ご依頼、ありがとうございました。)
パッシブな人は言い訳が多い(その金額では、上司を納得させられないので・・・)のに対して、アサーティブな人は言い訳を飲み込み、自分の言葉で話す(なんとか工事をさせていただけるよう、私から上司に進言しますので、この金額にてお願いできませんか。)
今野;これからはアサーティブな話し方をするよう、心がけます。
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相手の心に響き、相手を巻き込む話をする「表現力」、そして説得せずに共に勝つためにアサーティブに話す「交渉力」を身につければ、必ず技術営業は成功する。
「表現力」「交渉力」は、練習次第で上達するものだ。
ぜひトレーニングしてほしい。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。