(3)工事部課長の育成手法【vol.2】テクニカルスキル
前回に引き続き、成果を出す工事部課長の育成方法について考えてみよう。2回目となる今回のテーマは「テクニカルスキル」だ。
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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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工事部課長は何を学ぶべきなのか
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武上「一流の現場代理人になるためには技術を磨けば良いと思ってこれまでやってきました。そのために施工管理技士の資格を取り、さらに技術士に挑戦しているところです」
岩下「君は勉強熱心だな」
武上「でも、一流の工事部長や課長になるために、技術を磨く以外にどのような勉強をすればよいのかわからないのです」
岩下「まずは多くの知識を取り入れることが大切だ。そのためには本を読み、人と会い、旅に出かけることだ」
武上「いわゆる雑学ですね」
岩下「単に情報を取り入れるだけだと雑学や雑識にすぎない。それらをまとめ、自分の立場に置き換えればどうなるかを考えるとそれが知識になる」
武上「テレビを見て、自分に置き換えることができると知識になりますね」
岩下「それは番組によるな。『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』『プロフェッショナル』などは勉強になるぞ。さらにそれらにて学んだことを自分なりに解釈して、職場で実践しないといけない。ところで、君は、空を見ると何を感じる?」
武上「青空がきれいだなと」
岩下「雲の動きや風、気温や湿度から判断して、雨が降るかどうかを判断しないといけない。雨が降ると判断すれば、その対策が必要だ。現場であればシートの用意、出かけるのであれば傘の用意だ」
武上「なるほど、多くの情報を得て、それを解釈して、意思決定する必要があるのですね」
岩下「工事部長や工事課長は、『事実』を知り、それを『解釈』して、『解決策』を意思決定する能力が必要なんだ」
武上「職場に置き換えるとどのようになりますか」
岩下「例えば部下の顔色がよくなく、面談をしたら現場運営に悩んでいるとしよう」
武上「それは事実ですね」
岩下「工事の進捗状況に問題があると解釈したら、直ちに自分自身現場に行くか、応援部隊を派遣する。もしも個人的なことが影響しているのなら、部下の家に訪問するのがよい」
武上「『事実』をどのように『解釈』するかが重要ですね。」
岩下「そのために、本を読み、人に会い、旅をする必要があるんだ。日頃からの探究心がいざと言うときの意思決定に影響するんだ」
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数字が自然に目に飛び込んでくるか
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岩下「工事部会議の資料をよく見ているか」
武上「工事金額と利益を工事ごとにまとめたものですね」
岩下「そうだ。その数字の羅列を見て、どう解釈するかが重要だ」
武上「私には単に数字が並んでいるようにしか見えません」
岩下「例えば出来高と支払金額、残工事費と残予算、予算と実績、の差異を見る。イコールならいいんだが、差異があると現場でなにか事件が起こっている可能性がある。数字という『事実』を見て、『解釈』するのが工事部長や課長の仕事だ」
武上「なるほど、数字を見て、そこから現場の実情を解釈して、その後『解決策』を講じるのですね」
岩下「そうだ。おかしな数字が自然に目に飛び込んでくるようになれば、一人前の工事部課長だ」
武上「えっ、数字が目に飛び込んでくるのですか」
岩下「そうだ。そのためには、これまでに問題のあった現場の数字をよく見ておくことだ。数多く見ておくと、おかしな数字に気づくようになるんだ」
武上「わかりました。その状態になることをめざしてがんばります」
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探究心を持って多くの情報を得て、それを基に解釈し、解決策を意思決定する能力を「テクニカルスキル」といい、組織管理者には欠かせない能力だ。
あたかも空を見て、雨が降ると解釈し、傘を持っていこうと解決策を練ることのできる能力だ。
事実をしっかり見て、知識や経験を踏まえて自分独自の解釈をすることが組織管理者に求められている。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。