山陽新幹線の全面改修 ~安全運行に欠かせない点検と補修~
2016年03月09日
平成28年2月、JR西日本は、山陽新幹線の大規模改修を実施すると発表しました。新大阪-博多の全線が対象で、期間は2028年からの10年間です。総費用1557億円が見込まれています。
開業44年を迎える山陽新幹線
山陽新幹線は、東海道新幹線に遅れること8年、昭和47年3月15日に新大阪駅-岡山駅間が開業し、昭和50年3月10日に岡山駅-博多駅間が開業しました。
山陽新幹線は、ほとんどがトンネルと高架橋で構成されています(図表-1)。全面開業から約40年を経過し、トンネルや高架橋、橋梁の老朽化対策が必要となっていました。
出典:会計検査院「山陽新幹線におけるトンネル、高架橋等のコンクリート構造物について」
これまでの大きな事故
山陽新幹線では、過去に大きな事故が発生しています。平成11年6月に、福岡トンネルで、覆工コンクリートの一部が剥落して、走行中の新幹線車両を破損させる事故が発生しました。JR西日本では、全トンネルで、剥落の要因となったコールドジョイントの点検を行って剥落防止工を施工しましたが、事故から約3ヶ月後の10月には北九州トンネルで覆工コンクリートの打込み口が剥落する事故が発生しました。
JR西日本では、改めて山陽新幹線の全トンネルについて安全総点検を実施しました。トンネルの全覆工面を対象にハンマーによる打音検査等を実施し、剥落の可能性のあるジャンカと浮きを叩き落としています。
高架橋と橋梁についても、昭和60年頃からコンクリート片の剥落等が相次いだため、剥落箇所の補修や劣化の予防工事を行ってきました。
山陽新幹線の老朽化の原因
実は、山陽新幹線は、東海道新幹線と比べてトンネルや橋脚などのコンクリート部分の劣化が早い傾向が指摘されています。
山陽新幹線の建設時期は、高度経済成長期であり、官民の建設需要の大幅な伸びとオイルショックによる資材不足がありました。さらに工期の制約等厳しい施工条件が重なりました。
そのため、コンクリートの材料に使う砂が不足し、塩分が多く含まれる海砂が使われました。
他にも請負人が示方書等を遵守しなかったり、発注者の施工管理が十分でなかったりして、一部に適切でない施工があったといわれています。
その結果、山陽新幹線は東海道新幹線に比べ、トンネルのコールドジョイント数が多く、高架橋等については、塩分含有率や水セメント比の高いコンクリートが多く使用されていることが確認されています。
大規模改修の内容
今回の大規模改修では、全142トンネルについて、剥がれ落ちる可能性のある天井部分をパネルで覆い、線路に異物が落下しないようにします(図表-2)。
出典:西日本旅客鉄道株式会社「道路舗装に関する設計基準」
高架橋や橋梁では、内部の鉄筋を一旦剥がして入れ替えます。また、橋桁と橋台の間で揺れに対応している支持部材も取り換えます(図表-3)。さらに、線路の下の盛り土部分の改修も行います。
出典:西日本旅客鉄道株式会社「山陽新幹線の大規模改修工事の主な内容」
寿命を延ばす点検と補修
東海道新幹線は、バイパスルートとしてのリニア新幹線が着工していますが、山陽新幹線の代替計画はありません。点検と補修が、構造物の寿命を延ばし、安全運行を支えるのです。
【用語解説】
■コールドジョイント
コンクリートを複数回に分けて打設した際、新しいコンクリートを打設するまでに長い時間が経過して先のコンクリートが硬化してしまうことによって生じる継ぎ目のことです。一体化していないため、ひび割れの原因になります。
■ジャンカ・浮き
ジャンカは、コンクリートの表面に見られる粗骨材の凝集した箇所や空洞等の欠陥部分のことです。浮きは、コンクリートが劣化し、ハンマー等で叩くと比較的容易にコンクリート片が剥落する部分です。
■示方書
設計や施工についての技術基準書のことです。