洪水から暮らしを守る河川堤防
2015年09月29日
平成27年9月に関東北部を襲った記録的な豪雨により茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊しました。
常総市を中心に約40km2が浸水し1万2,000棟以上の住宅が浸水被害を受けました。
河川堤防の役割と構造
日本人の大半は、河川による堆積作用によってつくられた沖積平野に住んでいます。
したがって、もしダムや堤防がなければ、土地は水浸しになります。
河川堤防は、このような洪水から地域住民の生命と資産を守る重要な防災構造物なのです。
計画高水位(※)以下の流水を安全に流下させることを目的に築造されています(図表-1)。
出典:国土交通省「河川構造物」
ほとんどの河川堤防は、盛土(※)で築かれていますが、コンクリートや鋼矢板などで築造されることもあります。
「河川管理施設等構造令」により、河川の規模に応じて余裕高、天端幅(てんばはば)、法面勾配などの断面形状の最低基準が定められています。
堤防整備の歴史
明治以降、河川沿岸の開発に伴って洪水による被害が拡大したため、治水に重点を置いた旧河川法が1889年(明治22年)に制定されました。
そして、戦後の経済発展により、水力発電や工業用水などの利用が急速に拡大したため、利水関係の整備を目的として、1964年(昭和39年)に新河川法が制定されました。
1997年(平成9年)の河川法改正では、治水、利水(※)に加えて河川環境の整備と保全が目的として加えられました。
河川工事によって、コンクリートで塗り固められた護岸ばかりになったという反省から、うるおいのある水辺空間や多様な生物の生育環境を保全し、地域の風土を生かした川づくりが求められています。
河川整備計画
ほとんどの主要河川では、住民の意見も取り入れて、長期的な河川整備計画が策定されています。
河川整備計画では、河川ごとに被害を発生させずに流すことのできる水の量を規定しています。
一級河川(※)では100年から200年に一度発生すると想定し、中小の河川では50年から100年に一度の洪水の規模を想定していることが多くなっています。
もちろん、50年に一度の洪水よりも100年に一度の洪水の方がより大きな洪水です。
このように想定した洪水の場合に水位が堤防を超えないように、堤防を整備していこうとしているのです。
堤防の被災形態
洪水による堤防の決壊には、
①浸透による堤防決壊、
②侵食・洗掘による堤防決壊、
③越水による堤防決壊があります(図表-2)。
出典:内閣府 防災情報のページ「堤防決壊の事例」
浸透による堤防決壊は、水位の上昇によって堤防内部や地盤内に水が浸透して堤防が崩れるものです。
侵食・洗掘による堤防決壊は、流水によって堤防が直接浸食されて決壊するものです。
越水による堤防決壊は、水位が上昇して河川水が越流し、堤防が崩壊するものです。
したがって、堤防には①河川水の浸透に耐えること、②流水による浸食に耐えること、③地震による沈下や崩壊のないことが求められます。
堤防整備の課題
現在の堤防の多くは、長い歴史の中で構築されてきたものです。
そのため、場所によって材料や施工方法が異なっており、堤防としての能力が不均一になっています。
さらに、逐次強化を重ねてきたため基礎の地盤が複雑で、内部の構造が不明な箇所もあります。
各地の堤防は、これまで洪水に対して重要な役割を果たしてきましたが、このようなことから安全性の評価が難しい点もあります。
堤防が決壊すると基礎地盤が流されてしまい正確な原因究明が難しくなるほか、局所的な問題がきっかけで決壊につながることもあるため、安全性の確保には十分な注意が必要です。
【用語解説】
■計画高水位
想定した規模の洪水が発生した時に、ダムや遊水池などの洪水調節施設で洪水調節を行った後の水が流れる時の水位のことです。この水位を上回ると堤防が危険な状態になります。
■盛土
低い地盤や斜面に土砂を盛り上げて平坦な地表を造ったり、周囲より高くしたりする工事のこと、もしくは盛られた土砂のことをいいます。
■利水
河川や遊水地、湖沼などから水を引いてきて、その水を利用することです。
■一級河川
河川の重要度に応じて、河川法で一級河川と二級河川に区分されます。それ以外の河川は、普通河川となります。
一級河川は、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で国土交通大臣が指定します。
一級河川の特に重要な区間は国が直接管理し、その他の区間は都道府県が管理します。
二級河川は、一級河川以外の水系で公共の利害に重要な関係があるもので都道府県知事が指定します。
普通河川は市町村が管理します。
準用河川は、普通河川のうち市町村が指定するもので、二級河川に関する規定が準用されます。