建設工事の会計基準 ~客観性を保つ努力が求められる工事進行基準~
2015年09月03日
建設工事の会計基準には工事完了基準と工事進行基準があります。工事進行基準は客観性を保つのが難しいといわれています。
建設工事の特徴
会計原則では、収益金額の確実性を確保するために「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とされています。
例えば、一般的な店舗での物品販売では、その場で商品と金銭のやり取りを行って取引が一瞬で終わりますから問題はありません。
ところが、建設工事や造船、ソフト開発などではプロジェクトが長期にわたることが多くあります。
このような場合、引渡が完了した日に収益を計上すると、進行中案件の売上や原価が決算書に反映されないことになります。
つまり、現実の企業活動の状況が決算書では分からないということになります。
そこで、会計原則では「長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積もり、これを当期の損益計算に計上することができる」として例外を認めているのです。
これが工事進行基準です。
工事完了基準と工事進行基準
工事完成基準は、工事が完成して目的物の引渡しを行った時点で、工事収益と工事原価を認識する方法です。
完成してから売上と原価を計上するため客観性が高いという利点があります。
これに対して、工事進行基準は、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗率を合理的に見積って、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法です。
単純にいうと、工期3年で売上300億円、原価210億円の工事を請負った場合に、3年後に300億円の売上と原価210億円を計上するのが工事完了基準、1年ごとに売上100億円と原価70億円を計上するのが工事進行基準です。
工事進行基準は、決算日ごとに人件費等の原価と売上が計上されるため、プロジェクトの終了時に一括して計上するよりも企業会計の透明性が保てるという点が優れています。
従来は工事完了基準で会計を行うこととなっていましたが、平成21年から工事収益総額や原価総額を適切に見積もることができる場合は、工事進行基準を用いることが原則となりました。
工事進行基準の計算方法
工事進行基準では、まず受注時に売上総額と原価総額を見積もります。
そして、決算期ごとに実際にかかった原価を原価総額の見積で割って工事進捗率を算出します。
その期の売上は売上総額の見積に工事進捗率を掛けて計算することができます。
先ほどの例でいうと、1年目の原価が70億円であれば総額原価210億円の30%ですから工事進捗率は30%となります。
従って1年目の売上は、売上総額300億円の30%である100億円とするのです。
工事進行基準の注意点
しかし、工事進行基準では、工事の見積に努力目標などが入りやすく、不正の意図がなくても客観性を保つのが難しいという実態があります。
例えば、工事原価を少なく見積もってしまうと工事進捗率が実際よりも大きく計算され、売上が多くなります。
そのため、赤字を先送りすることにもつながります。
先ほどの例でいうと原価総額を200億円と見積もると、1年目の原価が70億円の場合、進捗率が35%になってしまうのです。
当然、売上も大きくなります。
また、工事進行基準を用いる場合、仕様変更や修正・手戻りの発生に伴う作業量の増加、工事期間の延長などにより事前の見積原価を超過する可能性が出てくると、その時点で原価と進捗率の再見積もりを行って適切な修正を行わなければ、客観性が損なわれてしまいます。
このようなことから、見積もりや工事進捗率の適切性を厳しくチェックする体制が企業に求められているのです。
日本公認会計士協会も、工事進行基準では、一般的に会計上の見積の不確実性が大きく、重要な虚偽表示リスクが高くなることが多いと指摘しています。