日本一厳しい環境に耐える伊良部大橋~台風や塩害との戦い~
2015年06月26日
平成27年1月に沖縄県宮古島市の宮古島と伊良部島とを結ぶ全長3,540mの伊良部大橋が開通しました。
通行料金を徴収しない橋としては日本最長です。
伊良部大橋の厳しい環境
伊良部大橋は、亜熱帯地域特有の高温多湿環境にあり、台風も頻繁に来襲する海上に架設されています。
直接外洋に面しており、常に風速10m/s程度の風が塩分を吹き付けます。
そのため、日本一厳しい環境にある橋と言われています。
離島の問題を解決
伊良部島は、海峡により宮古島と隔絶されている離島のため、医療、教育、福祉等の面で不便な生活を余儀なくされていました。
また過疎化の進行や産業の衰退等の問題も抱えていました。
昭和49年から架橋要請活動が始まり、よくやく平成4年度に基礎調査が着手されるに至りました。
そして平成18年に起工されたのです。
伊良部大橋の建設により、これまでの海上交通から陸上交通に変わりました。
医療・教育環境の改善、生活環境や福祉の向上及び地域の活性化が期待されています。
伊良部大橋の構造
伊良部大橋は、100年の耐久性を目標に建設されています。
橋の基礎は、鋼管で地盤に深く埋め込まれており、橋脚はコンクリート製で、橋桁は、中央の航路部分が鋼製、他がコンクリート製となっています。
橋の中央部は、貨物船や大型客船の航路が設定されています(図表-1)。
出典:沖縄県「伊良部大橋整備事業パンフレット」
台風への対策
沖縄は台風の通り道といわれるように、多くの台風が近辺を通過します。
特に、平成15年の台風14号では、宮古島で最大風速86.4mが記録されており、橋の台風安定性が厳しく検討されました。
橋の耐風安定性は、単にその風速に耐えるだけでなく、風によって発生する橋の振動現象に対する安全性も確保することが必要です。
通常は、風による空気抵抗を少なくするための風よけ部材を取付けますが、そうすると塩害による維持管理の負担が大きくなります。
伊良部大橋では、橋桁の断面形状を工夫して振動を少なくしています。
風洞実験での検討により、風の渦が発生しにくい8角形の断面が採用されました。
100年の耐久性を目標とした設計
伊良部大橋は、100年の耐久性を目標にするだけでなく、できるだけ維持管理が楽になるように各種の工夫がされています。
鋼製の橋桁部分には、アルミニウム・マグネシウム溶射を行った上、エポキシ樹脂塗装を行い、その上に、汚れ防止効果を有するフッ素樹脂塗装を行っています。
また、角の部分をできるだけ曲面状にして、塗膜が薄くならないように工夫しています。
このようにして、耐久性と汚れ防止効果を確保しているのです。
さらに、外部の付属物をできるだけ設けず、凹凸がない形状にしています。
凹凸があると塩分が付着しやすくなり、腐食の原因となるためです。
コンクリート製の部分については、エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いるだけでなく、鉄筋をコンクリートの中に9cm以上深く埋め込んでいます。
塩分の影響で鉄筋が腐食することを防ぐためです。
もちろんコンクリート自身も耐久性の高い緻密なコンクリートが用いられています。
これらの橋桁は、天候の影響を受けない工場で製作され、現地で架設が行われました(図表-2)。
出典:沖縄県「伊良部大橋 主航路部中央径間架設状況写真」
橋の効果への大きな期待
宮古島は、国内有数の青い海で人気のダイビングスポットを有する観光地です。
船で行き来するしかなかった伊良部島と繋がったことで、周囲の5島すべてが陸路で繋がりました。
絶景を誇るこの地域では、これからの観光を中心とした活性化が大きく期待されています。
【用語解説】
■エポキシ樹脂塗装鉄筋
コンクリート構造物の建設後に外部から塩分が侵入すると、鉄筋に錆が発生して体積が膨張し、コンクリート表面にひびわれが発生します。鉄筋にエポキシ樹脂塗装を行うことで、鉄筋を塩分から守り、鉄筋コンクリートの劣化を防ぎます。
■風速
風速10m/sを超えると、強い風で傘がさしにくくなります。風速30m/sでは、立っていられない状況になります。