洪水を防ぐ巨大な貯水槽~首都圏外郭放水路~
2015年06月12日
首都圏外郭放水路は、埼玉県春日部市の国道16号直下・深度50mにある世界最大級の地下放水路です。
この放水路の開通により、洪水常襲地帯であった倉松川流域などで洪水が減少しています。
洪水を防ぐ放水路
放水路とは、河川からの洪水を防ぐため、河川の途中に新しい川を分岐して掘り、海や他の河川などに放流する人工水路のことです。
道路におけるバイパスに相当するものです。
洪水対策は他にも、河道改修やダム、遊水地などがあります。
放水路は、以前は盛んに建設されましたが、住宅の移転に大きな費用と時間が掛かるため、現在では造りにくくなっています。
そこで、首都圏外郭放水路のように地下に大規模なトンネルを建設し、そこに放水するタイプの地下放水路が大都市の中小河川治水対策に活用されています。
首都圏外郭放水路の3つの機能
首都圏外郭放水路は、中川・倉松川・大落古利根川などが台風・大雨によって増水した時、流量容量を超えた水を地下に取り込みます。
そして、地下50メートルにある総延長6.3キロメートルのトンネルを通して貯留し、江戸川に流して洪水を防ぎます(図表-1)。
出典:国土交通省江戸川河川事務所「首都圏外郭放水路」
機能としては、以下の3つです。
(1)地上の溢れた洪水を地下に取り込む。
(2)水を地下の貯水槽に溜める。
(3)貯まった水を川に吐き出す。
平成18年6月に完成し、毎年7回程度の洪水を処理して住宅地等への氾濫を防いでいます。
地下神殿のような巨大貯水槽
洪水を取り込むのは直径30メートル、深さ70メートルにおよぶ5本の巨大立坑です。
そして、6.3キロメートルにわたる直径10メートルの地底トンネルで水を流します。
流れてきた水は、重量500トンの柱が59本もそびえる巨大な貯水槽に溜まります。
最後に毎秒200立方メートルの水を排水する14000馬力のタービンで水を川に排出します。
特に大きいのが、水の勢いと量を調整するための貯水槽です。
長さ177m・幅78mの広さがあり、59本の巨大なコンクリート柱が林立しています。
通常時は水が入っていませんので、人も立ち入れる巨大な地下空間となっています。
整然と太い柱が立ち並ぶ様子は地下神殿のような雰囲気があります。
首都圏外郭放水路の特徴
川の水は、水位が上がって川に造られた越流堤を越えると、立坑側に水が入って放水路に取り込まれます。
立坑に水を取り込む前に、除塵機という網戸のようなスクリーンがあるので、ごみや魚などはそこに引っかかるようになっています。
水が入った後のトンネルや貯水槽には、泥などが溜まりますが、雨の降らない時期に清掃が行われ放水路は空になります。
水が溜まったままで放置すると腐ってしまうためです。
首都圏外郭放水路の効果
平成12年7月の台風3号では、中川・綾瀬川流域で160ミリメートルの雨量があり、浸水面積約137ヘクタール、浸水家屋248戸におよぶ大きな被害が生じました。
しかし、大落古利根川までの通水が完了した後、平成18年12月の低気圧による洪水では172ミリメートルの雨量がありましたが、浸水面積は約33ヘクタール、浸水家屋は85戸と、浸水被害を大きく軽減することができています(図表-2)。
出典:国土交通省江戸川河川事務所「首都圏外郭放水路」
過去最大の流入量を記録した平成20年8月の低気圧豪雨の際も、約1,172万立方メートルの洪水調節を行って、流域の被害を減らしています。
外からは見えない地下の施設がこのように私たちの生活を守っているのです。