公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律 ~木造建築を増やして森林再生につなげる~
2016年09月30日
わが国では、戦後、災害に強いまちづくりに向けて耐火性・耐震性に優れた建物が求められました。そして、公共建築物も鉄筋コンクリートや鉄骨造などの非木造化が進められてきました。しかし、その方向が転換期を迎えています。
公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律の背景
木材は、断熱性や調湿性、衝撃緩和性などを持つほか、生産時のエネルギー消費が少なく、長期にわたって二酸化炭素を貯蔵できます。地球温暖化防止や循環型社会形成にも効果のある材料です。さらに、戦後造成された人工林が本格的な利用期を迎え、木材自給率の向上も必要になっています。
そこで、2010年10月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されました。木造率が低く、潜在的な需要が期待できる公共建築物について、国や地方公共団体が率先して木材利用に取り組むことになりました。
公共建築物は、木造化と内装の木質化を進めます。そして、公共建築物での木材利用を促進することで、他の建築物への波及も図り、国産木材需要の拡大を目指します。国産材の安定供給体制の構築や、木造の建築コストの競争力強化などにより、最終的に一般の建築物まで木造化を波及させる方針です。(図表-1)
出典:林野庁「公共建築物等における木材利用の促進スキーム」
地域活性化に貢献する木造建築物
欧米では、新たな木材製品であるCLTが共同住宅やオフィスビルの建築に利用されています。わが国でもCLTを活用した中高層建築物の建設が進められています。
新国立競技場では、木材と鉄のハイブリッド屋根構造やCLTの内装が採用されます。このように、技術の進んだ現在では、木造でも必要な耐火性能や耐震性能を確保することができます。わが国でも、平成12年の建築基準法改正により性能規定化が行われ、必要な耐火性能が確保できれば、様々な建築物について木造とすることが可能となっています。
また、木材を使うことは、地元への経済波及効果もあります。地場産材を利用した木造建築では建設費用の75%が地元に還元されるのに対し、外材を使った場合は50%、RC造では40%という調査結果があります。
木材の利用が促進される公共建築物
「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」では、①耐火建築物とすること等が求められない低層の公共建築物について、積極的に木造化する、②国は、その整備する公共建築物のうち、積極的に木造化を促進する公共建築物の範囲に該当する低層の公共建築物について、原則としてすべて木造化を図る、と定められました。
木材の利用を促進すべき公共建築物として、①国・地方公共団体の庁舎、公務員宿舎、②学校、社会福祉施設(老人ホーム、保育所等)、③病院・診療所、公営住宅、④運動施設(体育館、水泳場等)、⑤社会教育施設(図書館民館青年家等)、などが挙げられています。
私立学校や民間老人ホームなども、国や地方公共団体が整備する建築物と同様に高い公共性を有していると認められ、その公共性から公的な許認可や財政支援の対象となっているものも対象となります。
木造比率の予測
平成20年度では、公共建築物の年間着工床面積のうち、約4割にあたる約600万㎡が低層の公共建築物です。そして、木造化されているものが約100万㎡、非木造のものが約500万㎡です。このうち半分程度が木造化されると、公共建築物の木造率は、8%程度から25%程度まで向上すると予想されています。
【用語】
●木材自給率
1960年に90%程度であった木材の自給率は2002年には19%まで低下しましたが、2014年には30%にまで回復しています。戦後植林された木材資源が利用可能な段階を迎えたためです。山村地域の経済活性化も期待されています。
● CLT(Cross Laminated Timber)
CLTは、板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大判のパネルです。厚さは15cm程度で、断熱性・遮音性・耐火性に優れています。2013年にCLTのJAS(日本農林規格)が制定され2014年にはJAS認定工場が誕生しています。2014年には、CLTの普及に向けたロードマップが策定され、多くのモデル物件が建築されています。(図表-2)
出典:林野庁「平成26年度 森林・林業白書p3」