消費者の不安を解消する民間工事指針 ~杭工事データ偽装事件の反省から定められた12の事前協議項目~
2016年08月30日
マンションや建て売り住宅、ビルなど不動産会社が施主となって建設する民間工事を対象として、請負契約前に受発注者が行う事前協議の項目が定められました。
施工を円滑化して、消費者が安心して住宅購入や施設利用を行えるようにすることが目的です。
建設工事のリスク
一品生産である建設工事は現場ごとにその状況が異なります。工事が長期にわたり、地中の状況や近隣対応など、工事開始時には想定していなかったリスクが、工事中に発生する可能性が常にあります。
契約時点で想定されていなかった施工上のリスクが発生すると、工期調整や金額変更が生じて工事請負契約の受発注者間の調整が難航しがちです。そして、円滑な工事の施工に支障を来すおそれがあります。
特に、民間工事では費用や仕様、工期などについて、受発注者間の取り決めがあいまいでトラブルが生じたり、受注者が不利になるような問題がこれまでも指摘されていました。
杭工事データ偽装の反省
特に、地中で行う杭の打設工事では、想定深度で支持地盤に到達しない場合、再設計や杭の再注文が必要になることもあります。
横浜のマンションでの杭工事データ偽装事件では、このような想定外のトラブルに対して、工期厳守や工費圧縮の圧力が大きく、調整を申し出ることができなかったのではないかと指摘されています。
民間工事指針とは
このようなリスクは、どのような工事現場でもありえることです。従って、想定される施工上のリスクに関して受発注者が情報共有や意思疎通を図り、不明な点や各々の役割分担についてできる限り明確化しておくことが大切です。受発注者の双方で、設計変更が必要なケースや協議の進め方などを確認しておけば、トラブル発生時もあわてずに調整ができるからです。
そこで、平成28年7月に民間工事指針として、施工上のリスクに対する基本的な考え方が定められました。「適切な事前調査を行っても工事請負契約締結時点で想定できなかったような施工上のリスクが発現した場合の追加費用や工期延長の負担については、受発注者間で協議する」と示されています。
民間工事の協議項目
さらに、民間建設工事の適正な品質を確保するための協議項目として12の具体的項目が定められました(図表-1)。
出典:国土交通省「民間建設工事の適正な品質を確保するための協議項目リスト」
例えば、支持地盤深度についての考え方では「地盤状況を発注者がボーリングなどで調査した上で、設計者が杭長の設計などを適切に行う」。
その際の留意事項としては「工事請負契約の締結に先立ち、発注者、設計者及び施工者が、支持地盤深度、不陸の状況等について設計図書や質問回答書等を通じて情報共有し、不明な点を明らかにしておく」となっています。
受発注者でリスクを共有
民間工事における請負契約の締結では、 発注者が受注を希望する施工者に提示する見積要項書や仕様書は、契約書の一部と見なされます。従って、発注者はこの段階からリスク負担に関する考え方やその対応方法を施工者と共有し、適正な見積もり条件を示すことが必要となります。
受発注者双方がリスクの可能性を想定して契約を行い、トラブルに対して協力して解決に取り組む。建設工事の基本に立ち返ることが求められているのです。