(16)建設技術者のための人脈構築法【Vol.3】「世話まめ」で人脈を深める
人脈を作り、関係性を深めるためには、相手への思いやりが欠かせない。相手の立場に立って行動することが、人脈構築の基本だ。
ここでは建設技術者が行うべき「世話まめ」について考えてみよう。
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登場人物
地場建設会社 昭平建設
青木建一 現場担当 25歳
今野真一 係長 30歳
武上幸一郎 工事課長 40歳
岩下厳五郎 工事部長 50歳
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その場で世話をしてもらえるとうれしい
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岩下;これまで、「出まめ」、「電話まめ」、「筆まめ」、「メールまめ」について話してきたけれど、もっとも難しいが、もっとも効果的なのが「世話まめ」だ。
青木;「世話まめ」ってなんですか。
岩下;「世話まめ」とは、相手に積極的に何かしてあげることだ。例えば、何かを聞かれたり、相談を受けたりしたら、面倒臭がってはいけない。できる限り迅速に、知恵を貸したり何かを手配したり、別の誰かを紹介したりする。相手の要望に添えなかったとしても、手間を掛けた分だけ、相手は感じ入るはずだ。
青木;相手のことを思った行動をするということですね。
岩下;そうだ。相手から相談などを持ち掛けられたら、できる限りその場で対応するようにしよう。 例えば、別の知り合いへの取り次ぎを依頼されたら、その場で電話して「私の大切な友人の○○さんをご紹介します。ぜひ一度、お話を聞いてあげていただけませんか」などと言えばいい。相談した相手は「早速対応してくれた」と 感動するし、あなた自身もその依頼を忘れてしまうこともない。「後でご連絡しますよ」よりも、相手はあなたに強い印象を持ってくれるはずだ。
青木;私が今野さんに協力業者を紹介して欲しいとお願いしたとき、その場でその協力会社に電話していただけたことがありました。それはすごくうれしかったです。
今野;そんなこと、あったかなあ。でも、できるだけ早く対応することにしているのは事実だな。
岩下;単に相手からの相談や問い合わせを待つだけでなく、「あの人をこの人に紹介したら、双方に喜ばれるだろう」などと、先を読みながら自ら積極的に動くのも「世話まめ」だ。人同士だけでなく、情報も素材になる。新聞や雑誌などで相手の興味を引きそうな話題に接したら、「この記事、読みましたか。ご興味があるかと思いまして」などと一言添えて送るのも手だろう。
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三つの喜びこそが真の幸せを呼ぶ
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岩下;人生には、三つの喜びがあるというよ。一つ目は「してもらう喜び」。赤ちゃんが親など育ててくれる人に感じる喜びだ。二つ目は「できるようになる喜び」。自分でできなかったことが少しずつできるようになることで感じる喜びだ。三つ目は「してあげる喜び」 。電車でお年寄りに席を譲って感謝されたり、誰かを手伝って「助かったよ」と言われたりしたら、自分でも喜びを感じるはずだ。
今野;三つの喜び、よくわかります。私も会社に入って右も左も分からないときに、先輩から測量の仕方などを教えていただき「してもらう喜び」を感じました。そして次第に仕事を覚え、一人で現場を運営すると「できるようになる喜び」を感じました。そして今、部下として青木君を育てる際に、青木君から「よくわかりました。ありがとうございます。」などと言われると「してあげる喜び」を感じます。
岩下;「世話まめ」で目的とすべきは、この三つ目の喜びを感じることだ。見返りや メリットを期待するようなら、相手も貸し借りの範囲でしか認めてくれない。見返りのないお世話をしていると、それが積もり積もっていけば、相手との堅い信頼関係が培える。それが「世話まめ」の究極の目的なんだ。
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人脈作りはギブ&ギブの精神で
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岩下;現場リーダーの人脈構築術について、話したけれど、最後に、スキルアップのために欠かせない姿勢について、話しておきたい。人脈構築のために忘れてはいけないのは、「ギブ&ギブ」の姿勢だ。「ギブ&テイク」ではない。決して相手から見返りを求めない姿勢こそ、上手なコミュニケーションの前提となるんだ。
青木;「ギブ&テイク」という言葉は聞いたことがありますが、「ギブ&ギブ」という言葉は始めて聞きました。どういう意味ですか。
岩下;「ギブ&ギブ」とは文字通り、見返りを求めず与える、ということだ。知人との関係をもう一度思い起こしてほしい。あなたに対して、見返りを求める「ギブ&テイク」の関係の相手と、あなたに見返りを求めない「ギブ&ギブ」の姿勢で接する相手とでは、どちらを好もしいと感じるだろうか。やはり後者だろう。相手に何かを求めるのはもうやめよう。電話やメールにて、つれなくされても、めげてはいけない。そうした「ギブ&ギブ」の姿勢こそ、人脈構築のスキルアップをはかるうえで最も大切であるとともに、君たちの人脈を地道に広げることにつながるのだ。
青木;よくわかりました。私もこれから相手に対して見返りを求めず、「ギブ&ギブ」で接するようにします。
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人脈を深め、真の人脈を構築するのに、「世話まめ」の行動は欠かせない。しかも相手に見返りを求めない「ギブ&ギブ」の精神は重要だ。身の回りのお客様、近隣住民、協力会社、そして社内の方々への「世話まめ」を実施することで、施工管理をスムーズに進めることができる。
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ここまで16章に分けて「今すぐ使える! 施工管理のテクニック」をお伝えしてきました。今回でこの連載を終了といたします。あなたの施工管理において、何らかのお役に立てておればうれしく思います。どこかでお目にかかることがありましたら、ぜひお声がけください。
長期間お読みいただき、ありがとうございました。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。