(9)受注で勝つ建設業の技術提案【vol.3】着眼点を把握する
今回は、評価の高い技術提案書の書くための2つめのポイント「適切な着眼点を見つける」について解説しよう。
技術提案を作成する際は、相手のツボ、つまり着眼点を適切に把握していなければ、相手に響く提案を考えることはできない。
いかに漏れなく、適切な着眼点を見つけるかを考えてみよう。
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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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現場、現物(図面)主義で考えよ
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青木;建設工事における適切な着眼点を見つけるためのコツは何ですか。
岩下;着眼点を漏れなく見つけるためには、まずは現場をよく見ることが大切だよ。
建設工事は一品生産なので、現場ごと着眼点が違うんだ。
青木;医師が患者を診るときに、触診をしたり、様々な検査をして患者の体の状態を把握するようなものですね。
今野;現場で見るべきものは2つだ。
1つは自然環境。気温、湿度、風、貴重な動植物がいないか、河川や海の様子などだ。
そしてもう1つは周辺環境。近くの民家の様子、学校や工場がないか、道路の交通量や歩行者の状態、近隣住民が工事に反対していないか、などだ。
青木;なるほど、自然と周辺をよく見るのですね。
岩下;現場と同様に図面を良く見ることも大切だ。
この場所にどのようなものを作ろうとしているのかを把握しなければならない。
今野;例えばコンクリート幅が厚いと温度クラックが入りやすくなるし、開口部が大きいと構造クラックが入りやすくなる。
入手困難な部材を使用する計画になっていると工期遅延のおそれがあるし、現地発生土を使用するようになっていると、盛土沈下のおそれがある。
このように図面をしっかりみて、そこに潜む課題を見つけないといけない。
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「不」と「快」を把握する
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岩下;次に、発注者や近隣住民がどのような「不」を感じているかを知る必要がある。
青木;「不」ってなんですか?
岩下;不安、不快、不満、不備、不足などだよ。
青木;医師が患者を診るときに、問診をして患者から、どこが痛むのか、どんな不安があるのか、体調についてどんな不満があるのか、を聴くようなものですね。
武上;発注者や近隣住民がどんな「不」を感じているかを知るためには、医師が患者に問診をするように、発注者や近隣住民にヒアリングをすることが大切だ。
どんな不安があるのか、どんな時に不快に感じるのか、どんな不満があるのか、不備なものはないか、不足しているものはないか、などを聴くんだ。
今野;「クラックやジャンカが発生しないか不安」「工期が遅れ田植えに間に合わないのではないかと不安」「騒音で眠れないと不快」、などのような感じですね。
武上;発注者や近隣住民の「快」も着眼点になる。
青木;「快」ってなんですか
武上;必ずしも「不」を感じていないけれど、こうしてもらえると快いということを「快」というんだ。
体で例えると、押さえると痛む点が「不」、さわると気持ちよい点が「快」だ。
今野;作業員が近隣住民に気持ちよく挨拶したり、河川に稚魚を放流すると「快」になりますね。
武上;「不」や「快」を感じる点を着眼点という。
「不」の場合「~のおそれがある」、「快」の場合、「~と心地良い」と文章をつなげるとよい。
たとえば「クラック発生のおそれがある」とか「植林をしてもらうと心地良い」という感じだ。
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工程ごと着眼点を考えよ
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岩下;建設工事では工程ごとに着眼点が変わるので注意が必要だ。
青木; 例えば基礎掘削している時と、コンクリート打設しているときでは、着眼点が異なるということですね。
武上;そうだ。例えば基礎掘削段階に発生が予想される問題について、品質、原価、工程、安全、環境に分けて考えてみよう。
今野;まず品質上の問題としては、地盤が想定よりも軟弱で設計通りの寸法では掘れないおそれがあります。
原価上の問題としては、残土の処理費用が想定よりも多くかかってしまうおそれがあります。
青木;工程上の問題は、悪天候による工期遅延でしょうか。
安全上の問題は、重機と人と接触事故ですね。
環境上の問題は、掘削時の排水を川に流してしまうと水質汚濁のおそれがあります。
武上;そうだね。では続いてコンクリート打設時の着眼点を考えてみよう。
今野;品質上の問題は、やはりクラックやジャンカの発生のおそれがあります。
原価上の問題としては、コンクリート材料の食い込みですね。
青木;工程上の問題は、掘削時と同じように悪天候による工期遅延。
安全上の問題は、トラックミキサー車と作業員との接触事故ですね。
環境上の問題は、コンクリートポンプ車による騒音被害のおそれがあります。
武上;よくできたね。でもまだまだたくさんの着眼点が想定されるだろう。
大切なことは、工程ごとに漏れなく着眼点を抽出することだ。
そのためには多くの人たちと討議しながらピックアップするのがよいだろう。
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優先順位を決めよ
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青木;たくさんピックアップした着眼点には、すべて対策を考えるのですか。それはたいへんだなあ。
武上;着眼点の優先順位を決めて、優先順位の高いもののみ、対策を立てればよい。
そのためには2つの視点がある。
1つは結果の重大性、2つ目は発生の可能性だ。
結果の重大性とは、その問題が発生した時に工事の結果に与える影響の大きさだ。通常3段階で評価する。
今野;躯体を縦断するようなクラックの発生は、品質に与える影響は重大なので3点、同じクラックでもヘアクラックなら2点、浅い表面クラックであれば1点、という感じですね。
武上;次に発生の可能性とは、その問題が発生する頻度や確率の大きさだ。
頻繁に起きるのなら3点、起きる可能性があるという程度であれば2点、ほとんど起きないというのであれば1点だ。
今野;クラックでいうと、コンクリート厚さが大きく、コンクリート内外温度差が大きい気候であれば3点、コンクリート厚さが小さく、コンクリート内外温度差が小さい気候であれば1点、その中間で2点、という感じですね。
武上;そうだ。
結果の重大性の点数と発生の可能性の点数を掛け合わせた点数が大きい順に対策を立案する優先順位が高いことになる。
最大は3点×3点=9点、最少は1点×1点=1点だ。
青木;そのように定量化して考えると、論理的に着眼点の優先順位を決めることができますね。
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着眼点を抽出する際の注意事項は、漏れなく挙げることだ。
重大な着眼点を見逃すと、施工の際に想定外の問題が発生し、対応が遅れることになる。
そのためには、現場・現物、「不」と「快」、工程ごと考える、を考慮して着眼点をピックアップしよう。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。