(9)受注で勝つ建設業の技術提案【vol.1】3つのポイント
近年、入札の際にその工事案件に関連した技術提案書の提出を求められ、その評価結果をもとに受注可否を決めるという方式が増えている。
また公共工事竣工後に発注者が評価する工事成績において、効果的な「創意工夫」提案を多数提出すると、評価点がアップする仕組みとなっている。
そして、その工事成績評価点が、次の工事案件の受注の際に評価される。
つまり、発注者に評価される技術提案書、創意工夫提案を作成できなければ、工事受注ができなくなるのである。今回からは、評価が高くなる技術提案書の作成方法を解説しよう。
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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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わかりやすい文章で書け
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岩下;最近の工事では受注前に技術提案書やプロポーザル(企画、提案)を提出して、その評価結果の良しあしで受注する建設会社が決まる案件が増えているな。
今野;そうなんです。しかしなかなか技術提案書の評価結果がよくなくて、受注が増えず困っています。
青木;私も一所懸命に書くのですが、なかなか良い評価が得られません。
岩下;良い評価を得られるような技術提案書を作成することが、わが社の業績向上に対して最大の懸案事項だ。武上君、彼らに技術提案作成のポイントを説明をしてあげて欲しい。
武上;わかりました。評価の高い技術提案書を作成するためには3つのポイントがある。
まず1つ目はわかりやすい日本語で書くことだ。
青木;僕は国語が苦手だったから理科系に進み建設会社に入ったんです。いまさらわかりやすい日本語で書け、と言われても困ります。
武上;そうだろうな。建設業界で働く人の大半は文章を書くのは苦手だろう。しかし、だからこそわかりやすい文章で提案書を書くと他社の提案書に比べて目立つんだ。
青木;わかりました。文章作法の勉強をします。
武上;文章と言っても私たちが必要なのは、理科系の作文技術だ。理科系特有の文章術を学ぶ必要があるぞ。
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ツボを外すな
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武上;ところで青木君はマッサージを受けたことがあるかい?
青木;はい、学生時代に腰を痛めたので時々マッサージ治療をしてもらいます。
武上;腕のいいマッサージ師とそうでないマッサージ師の違いはわかるかい。
青木;腕のいいマッサージ師にマッサージをしてもらうと短時間で効き目がありますが、腕がよくないマッサージ師にマッサージをしてもらっても、まったく効果がありませんね。
腕のいいマッサージ師はムダのない動きをしているように思います。
武上;腕のいいマッサージ師の特徴は、的確にツボを見つけることだ。腰痛や肩こりの症状がでている原因であるツボを、患者さんに話を聞いたり、手で体を触って探る。
これと同じで、評価の高い技術提案書を作成するための2つ目のポイントは、ツボを外さないことだ。
今野;技術提案書のツボってなんですか。
武上;例えばコンクリートの品質を高めるための提案だと、構造物にクラックが入るおそれがある箇所がツボだ。
また周辺の交通安全を守るための提案だと、接触事故が起きるおそれがある地点がツボだ。
今野;なるほど、問題が発生するおそれがある場所や現象を特定することが大切だということですね。
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効果的な対策を立案せよ
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武上;ツボをみつけたら、続いて効果的な対策を考えることが大切だ。
今野;これが3つ目のポイントですね。
武上;マッサージだと、ツボを押すのか、揉むのか、叩くのか、それともその部分を手術して患部を摘出するのかを選択して、もっとも効果的な方法で施術することになる。
今野;どの方法を選択するかによって、効果の大きさやその費用もかわりますね。
武上;そのとおりだ。
コンクリートの品質でいうと、添加剤を入れるのか、打設方法を工夫するのか、養生の仕方を変えるのか、という対策が考えられる。
周辺の交通安全を守るための対策であれば、安全標識を出すのか、ガードマンを追加配置するのか、という対策がある。
その場所、その計画にもっとも適する対策を考えることが大切だ。
青木;できるだけ費用をかけずに大きな効果が得られるような対策を立案することが大切なのですね。
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評価の高い技術提案書の書くためには、以下の3つが欠かせない。
①わかりやすい文章で書くこと
②適切なツボを見つけること
③効果的な対策を考えること
このうち1つでもずれていると評価は低くなってしまい、受注前の提案なら逸注。
受注後であれば、設計変更が認められなかったり、原価の高い工法を選ばざるをえなくなる。
これらのポイントを意識しながら技術提案書を作成しよう。
降籏 達生 ふるはた たつお
建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。