工事部課長の育成手法【vol.1】部下の心を動かすためには

更新1024

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(3)工事部課長の育成手法【vol.1】部下の心を動かすためには

建設会社には工事部長や工事課長という職務がある。建設技術者は現場管理をすることは得意だが、部長か課長として組織を管理することが苦手な人が多い。

成果を出す工事部課長と成果を出せない工事部課長の違いはなんだろうか。

 

今回から3回にわたって、成果を出す工事部課長をいかにして育成するかについて考えてみよう。

1回目となる今回のテーマは「部下の心を動かすためには」だ。

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登場人物:
地場建設会社 昭平建設
・青木 建一 現場担当 25歳
・今野 真一 係長 30歳
・武上 幸一郎 工事課長 40歳
・岩下 厳五郎 工事部長 50歳
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人の動きを変えることができるか

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武上「岩下部長、現場代理人をしているときは、毎日何をすればよいのかわかるのですが、課長になって、毎日何をすればよいのかわからないのです」
岩下「工事課長とは何をするのが役割だと思う?」
武上「いくつかある工事をとりまとめ、それぞれの現場代理人をフォローすることだと思います」
岩下「そうだな。それは仕事のひとつだな。他に何があるだろう」
武上「会社や部の考えを現場代理人に伝えることですか」
岩下「そうだ。企業理念や工事部の方針を分かりやすく伝える事が大切だ。しかし伝えるだけでは不十分だぞ」
武上「その方針に沿って行動させることですね」

 
岩下「行動させるだけでなく、それまでの考え方や行動を変えさせることが重要だ。例えば、これまで現場代理人は現場の管理が主業務だった。しかし、不況期に入り、技術営業をすることが大切だ。そこで現場管理をしながら、毎週5件の顧客訪問をするように現場代理人に指示したとしよう」
武上「それはみんな嫌がるでしょうね。私には説得できないなあ」
岩下「そうだろうな。簡単ではないぞ。人の行動を変える力をイニシアティブという。例えばバケツに水が張ってあることを想像して欲しい。その水を右に回すと水の流れは右回りになる。その後、左に回そうとするとどうなる」
武上「手を左に回そうとしても右回りの水が抵抗するでしょうね」
岩下「その水の抵抗が部下の抵抗だ。左に回すのをあきらめて、水の流れに身を任せる方が楽だろうな。でもそれではいつまで経っても何も変わらないし成長もない。水の抵抗に負けずに左に回し、ついには水の流れを左回りにしてしまうことがイニシアティブだ」
武上「理屈ではわかるのですが、本当にそんなことができるのでしょうか」

 
岩下「ある道路会社の事例を紹介しよう。建設不況に伴って業績が悪化した。そこで社長は2つの方針を出したんだ。1つめは道路舗装工事をする前に、その近辺のコンビニを営業して回り駐車場舗装工事を受注すること、2つめは雨天時に地元建設会社の社長を訪問すること。」
岩下「具体的な指示ですね」
武上「そうだ、イニシアティブを発揮するためには、その指示内容が明確で、具体的で、肯定的でないといけない
岩下「その結果どうなったんですか」
武上「その道路会社は業績が上昇し、今ではその会社の株価は大手ゼネコンの2倍以上だ」
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自分の思いを正確に伝えることができるか

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武上「しかし、私はどちらかといえば口べたでうまく部下に話す自信がありません。」
岩下「自分の思いを伝えるのは、口頭だけとは限らないぞ。」
武上「えっ、口頭以外で伝える事ができるのですか」
岩下「部下の行動を変えるために重要なことは、率先垂範だ。自らコンビニ営業し、地元建設会社を訪問することだ。そうすると部下である現場代理人はやらざるを得ない。このように率先して動くことで、人の行動を変えることが重要だ」
武上「課長自ら行動すると、部下は従わざるを得ませんね」
岩下「親子でも率先垂範は重要だ。私の知人に子どもが登校拒否をしているAさんがいる。息子に何度学校に行くように伝えても息子は学校に行かない」
武上「それは親としては心配だったでしょうね」
岩下「Aさんが受講したある研修で、本を読み、感想文を書くという課題がでた。Aさんは本を読む習慣がなかったので、毎夕食後少しずつ読むことにした。好きなビールを止めてな」
武上「それはすごい。私はビールは止められません。。。」
岩下「お父さんが毎日本を読んでいる姿を見て息子さんは、ある日お父さんの前に来て
『父さんの前で一緒に勉強していい?』と聞いてきた。もちろんAさんはOKだ。それから1ヶ月後、目の前で勉強する息子さんがこういった。『父さん、僕明日学校行ってみようかな』」
武上「さぞご両親はうれしかったでしょうね」
岩下「その息子さんは、何度『学校に行け』と言われても心が動かなかったが、お父さんが好きなビールを止めて毎日勉強する姿に心が動いたのだろう」
武上「わかりました。私も部下が私の行動を見て行動が変わるよう、イニシアティブを発揮します」
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イニシアティブをとり、意思表明することで人の考えを変えさせる力を「コンセプチャルスキル」といい、組織管理者には欠かせない能力だ。
口頭や背中で語ることで、まるでバケツの水の流れを変えるようにチームを引っ張ることこそが、組織管理者に求められている。

降籏 達生 ふるはた たつお

建設技術コンサルタント。ハタ コンサルタント株式会社 代表取締役。
ハタ コンサルタント株式会社 http://www.hata-web.com/
映画「黒部の太陽」に憧れて熊谷組に入社。ダム工事、トンネル工事、橋梁工事などの大型土木工事に参画。阪神淡路大震災を契機に技術コンサルタント業をはじめる。
建設技術者4万人の研修・育成、1,000件を超える現場指導を手がけ、建設業界からの信頼が厚い。
編集長をつとめるメールマガジン「がんばれ建設~建設業業績アップの秘訣~(http://www.hata-web.com/mail_magazine.html)」は、読者数12,000人を誇る、日本一の建設業向けメルマガとなっている。